SS Cyg 2019-22年期の変光パターン
はくちょう座SS星(SS Cyg)の測光観測の第2段について2019年8月から2023年8月にかけて
主にのRcで測光観測を行いました。そのうち2022年12月までの観測結果についてまとめて
2022年12月に岡山理科大学大学において開催された連星系・変光星研究会で発表しました。
このページの図表はそのスライドを元にしたものです。
スライド1

2019-23年期の観測は、Facebook45上のAAVSOからの観測の呼びかけをきっかけに再開しました。
観測はスイスの笠井 潔さん、観音寺の片山敏彦さん、そして後半は名寄の佐野康男さんが加わり協同観測を行いました。
SS Cygの観測は2013-15年に約530日、2019-23年には約1500日にわたって長期の連続観測を行ってきました。
私たちの観測データは京都大学グループに提供し、今期の異常なふるまいの解明に使っていただきました。
私の最後の観測は2023年8月23日になります。この時新型コロナに罹患していました。
その後も高熱を解熱剤で抑えながら観測していました。8月25日も同じで、雲の多い中観測をスタートさせました。
その後仮眠しながら観測を続けていましたが、その日は天気の変化が激しくて急なゲリラ豪雨にみまわれました。
いつもなら雨音で観測機材を撤去するのですが、その日は解熱剤のせいか爆睡していて気づくのが遅れてしまいました。
その結果稼働させていた3台の望遠鏡が浸水の被害を受けることになります。
最も大きな被害は冷却CCDカメラでした。その他望遠鏡の制御用PC、観測用PCにもキーボードから水が入っていました。
被害総額は約150万円ぐらいになります。不幸中の幸いだったのは望遠鏡の駆動回路が無事だったことです。
スライド2-1

岡山理科大学での研究会は2022年12月16−18日に行われました。まとめに使った観測データは発表日前日の12月16日までのものでした。
今期の観測の中で一番大きな異常現象は、横軸550−600あたりに見られた「スタンドスティル」とよばれる
中間的な明るさにとどまる現象でした。
スライド2-2

2013-15年期のSS Cygの光度変化は2種類のアウトバーストの変光パターンが交互に繰り返す規則正しいものでした。
今期の光度変化はパターン化は難しいようでした。とりあえずアウトバースト期と静穏期の日数をカウントして比較してみました。
2019年8月から2022年12月までの観測を4分割してグラフにしてみました。
スライド3は1枚目の2019/08/08-2020/05/30の光度変化です。観測開始日より前のデータはAAVSOのRのデータを使いました。
横軸112、221あたりの低いピークも一応アウトバーストとしてカウントしました。静穏状態の明るさは少しずつ明るくなって
いました。
スライド3

スライド4は4分割の2枚目で2020/05/30-2021/03/26の光度変化です。
横軸300から400までの100日間に4回のアウトバーストが起きています。
これは2013-15年期に比べれば約2倍の頻度です。
短い周期で増減光を繰り返しながら静穏状態のレベルがだんだん高くなり、
最初のスタンドスティル(? 横軸400あたり)を迎えます。
その後約100日間は通常の(?)の増減光を繰り返し、突然規模の大きい
アウトバーストが26日間発生します。
このアウトバーストの終わりは減光が小さくて、このあたりから
長期のスタンドスティル(横軸540以降 約70日間)に入ります。
この期間にも規模の小さいアウトバーストが3回起きていますが
静穏状態との光度差は0.5-0.7等程度で、静穏状態の中での増減光のレベルです。
スライド4

スライド5は4分割の3枚目で2021/05/26-2022/01/20の光度変化です。
この期間は静穏期のレベルが高い状態が続きます。
赤丸で示した静穏期間は光度が一定(水平)にならが、グラフがV字型になっています。
スライド5

スライド6は4分割の4枚目で2022/01/20-2022/12/15の光度変化です。
この期間は静穏状態とアウトバーストのパターンが安定に向かっている時期のように思います。
グラフは130日間ほどの変化を示していますが、その間に9回のアウトバーストが起きています。
平均すると約35日間隔になります。静穏状態の明るさも11等(Rc)をこえて、少し暗くなってきました。
グラフ上に赤の四角で囲った二つの部分を比較すると似たようなパターンになっています。
スライド6

7枚目のスライドは静穏期について、日数ごとの出現回数を2013-15年期と比較してみました。
2013−15年期は静穏期間が長めでした。
それに対して2019-22年期は短めで、アウトバーストが頻繁に発生していました。
スライド7

8枚目のスライドはアウトバースト期間について、日数ごとの出現回数を
2013-15年期と比較してみました。
2013−15年期は約12日と約20の2つのパターンにはっきりと分かれていました。
それに対して2019-22年期は11-20日が多いものの、極端に短い場合や極端に長い
アウトバーストもあってパターンを決めることはできませんでした。
スライド8

9枚目のスライドはアウトバーストのピークから次のピークまでの日数を10日単位ごとにカウントして、
その出現数を比較しました。
2013-15年期は40−60日に集中していましたが、2019-22年期は間隔が短いものが多く
アウトバーストが頻繁に発生していることが分かります。
スライド9

10枚目のスライドはアウトバーストの期間とその直前の静穏期の長さについての相関を調べました。
静穏期間が長いとその間に降着円盤に入り込んだガスの量が多くなり、不安定になって
大きなアウトバーストが起きると予想しました。
横軸に静穏期間、縦軸にアウトバースト期間をとってプロットしてみましたが、2019-2022年期に関しては
その相関は見られませんでした。
スライド10

スライド11はSS Cygの短時間変動です。上のグラフはアウトバーストのピーク付近、
下のグラフは静穏状態の短時間変動のグラフです。
縦軸の幅は0.6等に合わせています。静穏状態で暗いときは変動幅が大きくなっていますが
現象そのものの規模はかわらないようです。静穏期の方が変動の時間間隔は短く頻繁に増減光を起こしています。
スライド11

スライド12
SS Cygの静穏状態における短時間変動について、Period04を使って周波数10個までを計算して
フーリエフィッティングを行ってみました。2019/10/08の観測結果とのグラフにフィッティングの計算値を
プロットしてみると大きな変動にはよく合っていることが分かります。
同様の処理を2019/09/10, 14, 16, 19, 25の5日と10/04, 06, 08, 09, 12, 13, 16, 22k
8日の合わせて13日間のデータそれぞれについて行いました。
スライド12

スライド13
横軸に観測日をとって、得られた10個の周期をプロットしてみました。
VSXには変光周期P=0.2751dとあるので、フーリエ解析によって得られた周期が0.21517日に近いものを探すと、
計算した13日の中で2日だけありました。計算した13日の大多数の日に共通している周期を探すと、
約29.5分ぐらいの周期が多いことが分かりました。
スライド13

スライド14
2019/10/08日のフーリエ解析で得られた周波数をもとにフィッティングを翌10/09まで延長してみました。
10/08の周期では時間が経つにつれて変光幅が大きく発散して実際の観測とはずれてしまいました。
同じ周期性は続いていないことが分かりました。
スライド14

スライド15
2013−19年期とU019-2022年期のSS Cygの観測結果を並べてみました。
SS Cygはノーマルアウトバストを繰り返すタイプとしてSS Cyg型と名前がつけられています。
青で示した2013-15年期はその特徴がよく現れた光度変化をしていました。
赤で示した2019-22年期はスタンドスティルが現れるよな不規則な光度変化を繰り返していたことが分かりました。
スライド15

岡山理科大学で行われた研究会では、2019年8月から始めた今期のSS Cygのしめくくりの意味で
観測をまとめました。この研究会の招待講演として木邑真理子さん(当時理化学研究所)からX線観測のデータをもとに
したSS Cygについて発表があり、木邑さんに続いて同じSS Cygについて発表させていただきました。
発表後に「この星の継続観測はこの発表をくぎりにして終わりにしようと思う。」と付け加えました。
それに対し、オンラインで参加・講演されていた木邑さんから「精度の高い観測なので続けてほしい。」というコメントをいだき、
大島 修さんからも「望遠鏡1台を専用の『SS Cyg測光望遠鏡』として観測を続けてはどうか。」というコメントを
いただきました。
皆様のコメントにパワーをいただくとともに名寄の佐野さんも観測にして協力くださるようになって、
その後も観測を続けることになりました。
2022/12/16以降も観測を続けていましたが、2023/08/25に測光システムが雨で壊れてしまいました。
その後佐野さんからいただいた9/27までの観測を最後にして、
せっかく続けることにしていたSS Cygの観測を断念することになってしまいました。
多くの方に協力やアドバイスをいただいて4年間この星の観測を続けることができました。
ひとつの星を長期にわたり徹底的に追跡観測をすることはあまり例がなく貴重な観測になったと思います。
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